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適当に選んだ喫茶店にしては、なかなか小綺麗な店だ。
店内はそこそこ広く、ゆったりとしたジャズのメロディーが微かな音量で流れている。
私達は店の奥の観葉植物に囲まれた、店の入り口からはあまり見えない席に座った。
「いらっしゃいませ、お客様ご注文は何になさいますか?」
ウェイトレスの姿をした若い女性が伝票を片手に尋ねてくる。
「私はアイスティーをお願い。天使は?」
綾はだいぶ落ち着きを取り戻したらしく、慣れた口調で手早く注文した。
「私はレモンティーを。」
ウェイトレスは軽く会釈して下がっていった。
「それにしても、さっきのあの化け物は一体何だったのかしら?」
綾は溜め息混じりに呟く。
「そう言えばあのゲリラと言う名の化け物...自分のことをアルメデス特攻隊長の一人だと名乗っていたな。」
私はアレクが死んだ時の事を思い出していた。
「あの化け物、私が狙いだって言ってたけど...どうして天使のことを知ってたのかしら?あいつが化け物に変わる前の姿って、天使のお父様だったんでしょう?」
私は言おうか言うまいか悩んだ末、綾に話すことを決めた。
「実は私がまだ8歳くらいの頃、今日の綾みたいに生け贄として私の母が狙われたことがあったんだ....。」
語る口調が自分でも無意識のうちに重くなっていく。
「じゃあ、天使のお母様は...あいつらに?」
「いや、連れて行かれそうになったけど助かったんだ。」
そして私は疑問を浮かべる綾に、あの日の自分に起こった出来事を全て話した。
両親の友人であり、私自身も友人と思っていたアレクをこの手で死なせてしまったこと、その時に目覚めた魔力という力のこと、両親の家系から始まる私の運命に関わったおとぎ話の様な言い伝えのことも。
「そうだったの...。天使はそんな辛いことがあっても幼い頃からずっと、一人で強く生きてきたのね。」
綾は自分の幼い頃を振り返っている様だった。
「ご両親は天使が10歳の時に、既に亡くなっていたからあの化け物が偽物だってわかっていたのね。」
私は静かに頷いた。
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