ちょこれとけーき

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 何故か付き合ってたんだけど。そう、好きでもない女と。三ヶ月も良く持ったな、なんて思いながら。真っ白いふかふかの羽毛布団をゆっくりと剥ぎ、むくりと起きてベッドから足をおろして座る。あいつは勝手でスタイルも良く顔も美人で、外見だけは完璧な、悪魔みたいな女だった。溜め息をひとつ。顔を両手でぐっと擦り、目が覚めた事を再認識する。上唇をつまむ、これは癖だ。考え事している時にふとやっている気がする。まだぼやけている視界の端に薄らとうつった、殺風景な自分の白い部屋。白い家具。ベッドの脇の低いコンパクトな棚の上に手をのばし黒渕の眼鏡を取り、掛ける。視力は相当悪い。元々悪かったけど二十歳くらいの時から急速に更に悪くなり、二十六の今。裸眼じゃあヘソくらいの位置までしかきちんと見えなくなってしまった。レーシック手術超受けたい。いや、駄目だ今の貯金は俺の野望の為にとっておかなければ。六十万しか無いけど。バイク新調して春に花見行きたい。あんな自分勝手な女じゃなくて、あの子みたいな可憐で可愛らしい女の子を後ろに乗せて。などと、下らない事を色々と考えながら、かなり冴えてきた頭。腹が減った。なんか、あったかな。っつか寒ぃ。そっか、風呂入ってそのまま寝たから俺、裸なのか。タンスから黒いシャツをズリズリ取って羽織り、青いチェック柄のトランクスを履き、あれ――部屋着が無い。床に脱ぎ捨ててあった、スーツの下と目が合い仕方なくそれを履く。左手で頭と耳を掻きながら、右手で部屋のドアノブを掴み、でっかい欠伸をして部屋を出た。寒い。俺の部屋の前には愛用の黒いスリッパが木の床の上に揃えて置いてあった。あの子が揃えてくれたのかな。まあいい。それを履きリビングへと進む。廊下を数歩歩けば曇り硝子つきのこげ茶色の扉があり、その先はリビングだ。何故か灯りがついている。蛍光灯じゃなくて、あのセピア色の灯りって、名前なんつーんだ。まあいいか。誰か起きているのか、こんな夜中に? ガチャリとリビングの扉を開ける。ここには二人の女の子と三人の男が住んでいて、皆他人だ。いわゆるルームシェアってやつ。リビングに入ると俺を出迎えたのは、優しいやんわりとしたあのセピア色の洒落た照明、だ、け。あれ? 何だ、誰も居ないのか。
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