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空腹に絶えることは造作もなかった。だって、子供の頃育児放棄され自宅に放置されても1週間生き残った。他の姉弟は無惨に枯れ果て、蝿の王と化していたが。
だが、目の前のセカイが、黒ずみ顔を歪めているのを見ると、本当に人間に生まれたことを呪いたくなる。なぜこうもどうにかしたいと考えてしまうのだろう?
「カンタロー…」
「なんだい?」
瓦礫の中から見つけた板の上にありったけの布で作ったベッドの上で、セカイは蚊細い声を出した。
「頭が重いわ…」
「熱かな。畜生、他の人と一緒に細菌も死ねばよかったのに」
これが正しかったんだ。
灰が降り注ぐ極寒の外を眺めて思う。
人間は神様に近づきすぎたんだ。
やってはいけないことをしてしまったんだ。
今だから後悔はない、そう思える自分は、死ぬべくして死ねなかった失敗品だ。
さぞかし、品質が悪いのだろう。
この空間がどうやって出来たのか、ここが何処なのかも分からないが、ビルの倒壊部分であるのは確かだ。使える物を外から持ち込み、こうして過ごしている。
…何故生きているのか分からないけど。
セカイは焚き火を隔てて僕を見ている。焚き火と言っても、旅館の鍋料理に使う固形燃料を燃やしているだけだが、ここは酸素の薄い代わりに温かい。
セカイの視線は、熱に魘されたそれではなく、ただ本当に薄目を開けているだけであった。体調を崩したのは最近だが、こんな状況では来るべくして来た死の兆候かもしれない。
もっとも、僕と言えば無駄な丈夫さだけが残っているだけで、それは訪れない。
「カンタロー…」
「何?」
「この前の怪物、覚えてる?」
「ああ、うん」
僕は思い出しながら答えた。
セカイが倒れる前、二人で何か娯楽がないだろうか外に出た。
視界が悪いので、僕達はロープを自分達の居場所から伸ばし、背を低くして歩き出した。
外は極寒、上空は曇天の下乱気流が発達しそして灰が降っている。
先頭を行く僕は何度もゴーグルを手袋で拭いながら悪い視界に目を凝らす。廃墟や瓦礫があれは漁る。出てくるのは滅びた文明の遺物達…手のない人形、潰れた万年筆、車の玩具は黒く錆びていて、舞い上がる紙くずは綺麗だ。
その時、ロープが強く引っ張られ、僕は振り返った。
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