3つの無理難題

5/6
前へ
/227ページ
次へ
トールは魅入った。 賢者の石は生命の源を含み、あらゆる物質に変質するという。 軟らかくもあり、硬くもあり。 重くもあり、軽くもあり。 人の言葉は定まらず、不思議な存在は伝説になる。 そして、その幻を瞬時に見せる魔術の素晴らしさ。 「…かつては、5つ持っていたのだが、1つ盗まれたのだ」 トールの小さい目が見開いた。 「これを、あなたから盗んだ人が?」 「ああ。タキトゥス=ファングという男で、3年程前に」 ブラッグとトールの向こうで、ロックとアイゼルの視線がアリスンに集中した。 アリスンは、頻りに右手と首を横に振った。 「ガレス総長の弟子で、優秀な男だが…………ともかく、4つでは出来ない儀式や呪法があるのだ。 1つ用立ててもらえると助かる」 「わかりました」 トールは、快活に言った。 「課題が揃ったら連絡しなさい。 私への伝言は、アリスン=ファングに頼めば容易い」 「はい!! ありがとうございました!」 深々と頭を下げるトールの前を過ぎ、ブラッグは祭壇の間を出ていった。 アリスンは祭壇の間の出口脇の壁に貼りついて、ブラッグの視線を避けた。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加