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トールは魅入った。
賢者の石は生命の源を含み、あらゆる物質に変質するという。
軟らかくもあり、硬くもあり。
重くもあり、軽くもあり。
人の言葉は定まらず、不思議な存在は伝説になる。
そして、その幻を瞬時に見せる魔術の素晴らしさ。
「…かつては、5つ持っていたのだが、1つ盗まれたのだ」
トールの小さい目が見開いた。
「これを、あなたから盗んだ人が?」
「ああ。タキトゥス=ファングという男で、3年程前に」
ブラッグとトールの向こうで、ロックとアイゼルの視線がアリスンに集中した。
アリスンは、頻りに右手と首を横に振った。
「ガレス総長の弟子で、優秀な男だが…………ともかく、4つでは出来ない儀式や呪法があるのだ。
1つ用立ててもらえると助かる」
「わかりました」
トールは、快活に言った。
「課題が揃ったら連絡しなさい。
私への伝言は、アリスン=ファングに頼めば容易い」
「はい!!
ありがとうございました!」
深々と頭を下げるトールの前を過ぎ、ブラッグは祭壇の間を出ていった。
アリスンは祭壇の間の出口脇の壁に貼りついて、ブラッグの視線を避けた。
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