第一章 シド・シュテイン・ネスメヤーノフ・ダリヤ

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皇帝の寵愛を二分していた二人の妃の皇子達は、皇位継承をめぐって激しく衝突してきたが。 身分の低い母を持つ歳の離れた第三皇子、シドは眼中に入らなかったらしい。 第一皇子が皇位継承権を得てからは更に放任され、流れ流される内に気付けば他国へ取引される材料にされていた。 「……また、か。我が血脈は未だ猛々しいようだ」 「本格的に殿下が動き始めましょう……国外ではございますが、御身御気をつけ下さいませ」 「解った。ヨシュア、お前もな」 「御意」 シドは大きく息を吐き出すと、気持ちを切り換えるように頭を振るった。 「……ヨシュア、女帝が興した一揆軍のことなんだが、主立った幹部を至急調べろ」 「一両日中に御報告致します」 「頼む」 「御意、失礼致します」 「ああ」 シドの珍しい頼み事に驚きながらヨシュアが退出したのを見計らって、シドは室内に山積みにされた荷の中から小箱を一つ探し出した。 中身を確認し、顔を綻ばせる。 女帝の顔を見れば、冷えた心が少しだけ温まる様な気がする。 衣の裾を翻し小箱を大切に抱え込むと、宝物の山をそのままに部屋を後にした。
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