序章

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朝露に濡れる木々の隙間を埋め尽くす陽光の中を飛び回る雲雀の声。 その声に導かれる様に毎朝、辰の刻に開かれる皇帝とその側近のみが謁見する、皇帝に一日の始まりを告げる公務の事を朝議という。 黒と緑に統一された簡素な机に七脚の椅子が置かれた小さな一室にて、茶器に未だ湯気が立つ最中、突如として静寂が降りる。 琉国第三十代皇帝琉琥珀(リュウ コハク)は、三年前の即位以来の衝撃に打たれていた。 「わたしが、結婚!?」 平常通り幾つかの決裁に関わる案件の報告の後、琥珀にさらりと言ってのけた人物は、昨年、平民の出自にありながら科挙に合格し、礼部尚書に抜擢された齢二十歳の秀才、茗蛍夕(メイ ケイセキ)である。 「はい。内政も近年実り有る成果が出ていますし、そろそろ陛下に身を固めて頂いて、御世継ぎを…」 「待って!わたしまだ十八だよ!?」 「恐れながら、もう十八です!!」 机を両手で叩いて立ち上がる私に、同じく蛍夕は立ち上がって反論する。 「いいですか陛下!御世継ぎ問題こそ、国力を左右する重要な御公務です!!陛下御自身、よく御理解されているでしょう!余剰な権力抗争を皇室に招いては断じてなりません!」
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