序章

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私が未だ三歳だった頃、一番上の兄様の泰斗(タイト)皇太子暗殺を皮切りに始まった、前皇后可王水(カ オウスイ)による政変のため、母様は秘術をもって私を異世界へと亡命させた。 秘術の効果が消える十二年後、帰ってきた私を待ち受けていたのは、王水の刺客から逃れる日々と、荒廃した国に立ち向かう人々の姿。 皇女として、剣を握ったあの日…… 連戦の末に、漸く訪れたこの平和を、どうして私が壊せるだろうか。 おとなしく椅子に座る私を見て、蛍夕は満足げに頷く。 「お相手は陛下にとっても我が国にとっても、申し分ございませんよ?何より内官が喜びます。お世話する方が陛下お一人では……琉国後宮の名折れ。まぁ、璋帝は例外ですけど」 璋帝こと琉璋長は、先々代の皇帝で私の祖父にあたる。 戦場と女色を好む暴君だったとか。 「……どのような御方なのですか?」 私と蛍夕の会話に割って入ったのは、蛍夕の隣に座っている、栗色の長い前髪を流す様に眼鏡をかけた私の従兄弟である紅真珠(コウ シンジュ)だ。 真珠は幼い頃から私に仕え、共に亡命した兄のような存在だ。 現在は導師として、国内の秘術師を束ね、変わらず傍に仕えてくれている。
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