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蛍夕は思わず小さな溜め息を零した。
「内乱のため我が国は出遅れました……ダリヤ帝国にゴッドハルド王国という、隣接する大国とどのように手を携えていくのか決断する時が来たんです」
真っ直ぐな蛍夕の瞳はとても真摯だ。
「最も友好的且、有効な手段である婚姻を大国ではなく臣下にみすみす渡すのは勿体ないでしょう?」
「……成る程な」
「ここからは私個人の一存ではありますが、代々友好関係を維持してきたゴッドハルドよりも、幾度も衝突を繰り返したダリヤとの関係が、本件によって新たな展開に進まれる事を期待しているんです」
蛍夕は微笑み一礼すると、俺に退場を促す。
そのままたわいもない会話を続け、後宮の前まで送り届けてくれた。
長い散策を終えて自室に戻ると、女官達に茶器を調えさせる。
下がらせた女官の気配を感じながら、渇いた喉を潤す。
意図は不明だが、蛍夕の言葉は帝国の思惑と相まって実に興味を引くものだった。
そして……
敵はどうやらゴッドハルドのガキだけでは無いらしい。
あの様な気安い女帝の態度から思い上がる臣下が他にも居るのかと思うと、やけに胸中がざわめいて仕様がなかった。
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