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「久しいな、ヨシュア」
「お待たせ致しました、皇子」
ヨシュアとの連絡を取るため、ダリヤより今朝届いた女帝への贈答品を選別するという体裁を取り繕い、漸く前宮の一室を貸し切る事が出来た。
管理体勢が厳しい後宮では人払いに限界があり、何より異性であるヨシュアを自室に通す事が出来ないのだ。
「状況は?」
「本国は本件に関し、皇子に一任する姿勢に変わりはございません。むしろ陛下はゴッドハルドとの一騎打ちに大変関心された御様子で」
「……一騎打ち、か」
蛍夕の言葉が不意に蘇る。
ゴッドハルドしか相手にしていなかったが、左将軍といい、近衛兵といい、気安い女帝の周囲にいる臣下共を見ると、何故か腹立たしくなるのだ。
「皇子……?」
ヨシュアの声に慌てて我に帰る。
「いや……ゴッドハルドには近年負け越しだからな。ジジイのウサ晴らしにはもってこいなんだろう」
言葉を濁すシドの様子から、ヨシュアはシドの微妙な心情の変化を読み取っていた。
――シドの纏(マト)う雰囲気が柔らかい――
ヨシュアは微笑む。
シドに幼い頃から仕えているからこそ判る、嬉しい変化だった。
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