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氷に閉ざされた仄暗い王宮で、独り佇む美しい少年の冷たい眼差しが談笑するダンスフロアを見下ろしている。
あの瞳に灯る暗い輝きが薄れている――
「なにをニヤついているんだ?」
シドの怪訝な顔にヨシュアは笑いかけた。
「いえ。如何ですか琉国後宮は?」
「女官教育が徹底されすぎだ、息抜きも出来ん」
「お言葉とは違い、お顔は何やら楽しげにお見受け致しますが」
「女を追い掛けるなんて慣れない事をするせいだろう。おかげで退屈はしないがな」
シドの言葉を受けて、ヨシュアは次の報告を伝えねばならない自分の使命を呪う事になる。
「どうしたヨシュア?今日は笑ったり沈んだり忙しいな」
シドの言葉を合図に、ヨシュアは覚悟を決めた。
「……シド様、未だ探索半ばではございますがご報告が」
ヨシュアの固い表情に、シドも自然に居住まいを正した。
「構わん」
「皇太子殿下の御子息が暗殺されました……確証はございません。ですが……!」
「兄上か」
ヨシュアの無言は、シドの問いを肯定していた。
ダリヤ帝国には三人の皇子がいるが、第一皇子と第二皇子の確執は根深いものだった。
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