第二章 紅 真珠

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― 朝儀を終えて、退出する私を近衛大夫の芬皖が呼び止める。 「真珠!」 右手で手招きする様が、何やら厳めしい。 「何事ですか?」 訝しむ私を引きずるように自室へと押し込んだ芬皖は、乱暴に椅子を勧めるとお茶を用意する。 初めて訪れた芬皖の自室は、私のそれと間取りや家具に違いは無いのだが。 室内総てが桜色の布で装飾されており、改めてこの女装癖の大夫の存在の凄みに気圧されてしまう。 「アンタに話があるのよ」 お茶を差し出し向かい側に座ると、芬皖は長い脚を組んで煙管に火を付けた。 「それは、私もです。陛下の御様子は如何ですか?」 男子禁制の後宮にて、大公、両君を除いては、この芬皖が唯一足を踏み入れることを許された異性(?)なのである。 「陛下は大丈夫。熱より、公務を休んだことを気にしてるくらいだもの」 くすり、と笑みを零し煙りを吐き出すと芬皖は私の目を見詰めた。 「さて、アタシの話ね。もう単刀直入に言っちゃうけど……和珠、おかしいのよ」 「和珠が?」 「そう。昨日の話よ、晶輝様と闘りあっちゃって。理由(ワケ)を聞こうにも黙っちゃうし。何を塞ぎ込んでるんだか!」
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