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―――
「あ、兄貴ッ!?」
芬皖の伝言を伝えに現れた私を前にして、和珠は椅子から転げ落ちる程狼狽していた。
余程私が、実家を訪れた事が衝撃らしい。
……十五年振りの帰省だからだろうが。
「入りますよ」
和珠の了承も得ず、座り直した和珠の向かい側の席に着く。
室内は、少ない家具と飾り気の無い装飾が施された壺が窓際に飾られるだけの、正に寝て帰るためだけの部屋であった。
「え!?兄貴が来るなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「私が現れる程の非常事態ではありませんか、禁軍左将軍殿?」
バツの悪そうにそっぽを向く和珠に、私は一つ仰々しく咳ばらいしてみせる。
「晶輝様が宮殿を離れました」
弾かれたように驚く和珠は、顔を伏せた。
「そう、か……」
「晶輝様は、陛下が倒れられる程に氣を乱しておいでです」
「なっ!?」
狼狽する和珠の口を、私の視線が縫い留める。
「昨日、晶輝様にお会いしました。掻き乱されたあれ程の氣ならば、主側に迄影響を及ぼしてしまうでしょうに……!」
「っ!?」
「和珠、貴方は臣下なのですよ?心安く晶輝様に接するなと幾度話せば……」
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