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夜風が優しく静寂を駆け抜ける。
雲間から覗く月が、いつもより輝いて見えるようだ。
見上げるのは、泰白宮前宮。
引き止める家宰を宥めて迄家を出たのは。
心を閉ざした重い蓋(フタ)から溢れた想いが、止まらないから。
会えないことは解っていたが、どうしても足が此処に向いてしまったのだ。
――少しでも、陛下の傍に……!?
私は目を疑った。
もう、夜更けだというのに、陛下の執務室から明かりが漏れている。
陛下は後宮で休んでいる筈だが……!
急いで回廊を進み、階段を駆け上がっていく。
本日、絽久は休暇中だ。
絽久が居ない以上、陛下を寝台に縫い留められる近衛兵は居ないのだから。
珊瑚の墓参りまで、後、幾日も無い。
公務に支障をきたさないためにも、陛下は無理をしても公務をこなそうとするだろう……
執務室の前に辿り着いた時だった。
【がたん】
室内から大きな物音がした。
「陛下ッ!?」
飛び込んだ視線の先には、椅子から崩れ落ちた陛下の姿があった。
「……真、珠?」
抱き起こした身体は、衣越しにも伝わる程の熱を帯びていた。
「やはり無理をなさってましたね」
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