第二章 紅 真珠

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― 夜風が優しく静寂を駆け抜ける。 雲間から覗く月が、いつもより輝いて見えるようだ。 見上げるのは、泰白宮前宮。 引き止める家宰を宥めて迄家を出たのは。 心を閉ざした重い蓋(フタ)から溢れた想いが、止まらないから。 会えないことは解っていたが、どうしても足が此処に向いてしまったのだ。 ――少しでも、陛下の傍に……!? 私は目を疑った。 もう、夜更けだというのに、陛下の執務室から明かりが漏れている。 陛下は後宮で休んでいる筈だが……! 急いで回廊を進み、階段を駆け上がっていく。 本日、絽久は休暇中だ。 絽久が居ない以上、陛下を寝台に縫い留められる近衛兵は居ないのだから。 珊瑚の墓参りまで、後、幾日も無い。 公務に支障をきたさないためにも、陛下は無理をしても公務をこなそうとするだろう…… 執務室の前に辿り着いた時だった。 【がたん】 室内から大きな物音がした。 「陛下ッ!?」 飛び込んだ視線の先には、椅子から崩れ落ちた陛下の姿があった。 「……真、珠?」 抱き起こした身体は、衣越しにも伝わる程の熱を帯びていた。 「やはり無理をなさってましたね」
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