第二章 紅 真珠

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【ぽたり】 雫が頬を伝って、琥珀の頬に落ちた。 琥珀の見開かれた瞳に映る私が、泣いている。 堰(セキ)を切った感情が涙に変わっていることに、今、漸く気付いた。 堪えに堪えた秘めたこの想いが大き過ぎたのだろうか? かつてこれ程感情を揺さ振られたこと等、無い。 感情をぶつけた戸惑いのままに、どうして琥珀を抱けるだろう。 「……真珠?」 無理矢理に組み敷かれているというのに。 琥珀は切ない程優しい声で、私の名を呼んだ。 琥珀の前で、否、他人の前で初めて流した涙に、琥珀も動揺しているようだ。 琥珀の声に弾かれたように身を離すと、両腕の拘束を解き、瞳を伏せたまま声を絞り出した。 「……どうか、このまま御戻り下さい!」 身体を起こした琥珀が口を開こうとするが。 【コンコン、コン】 半開きの扉をノックした人物は。 「ルイ!」 いつの間にか室内へ現れたルイは、足早に琥珀に近寄ると自身の上着を羽織らせた。 「これが、真珠の応えですね?」 私の沈黙を了承したものと受け取ったのだろう。 優しい微笑みと共に琥珀を連れて、ルイは静かに退出した。 涙が、とめどなく流れた。
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