プロローグ

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すると、信治は携帯で誰かと話ながら突然走り出した。 私のお母さんからの、私が事故にあったことを知らせる電話だったようだ。 途中、自転車に乗った通行人にぶつかりそうになる。 私は空に浮遊したまま、信治の後を見守るように付いていった。 信治が向かった場所は私が運ばれたらしい病院だった。 約1年前、信治と初めて出会った日に、膝の手当てを受けた病院だ。 信治は入り口へと駆け込み、階段を駆け上がる。 後を付いていくと、2階の病室に入った。 そこにはお母さんが待っていて、ハンカチを手にしながら泣いていた。 お母さん……。 傍らには医師の姿もある。 信治は私の寝かされているベッドに歩み寄ると、震える手で顔にかけられた白布をそっとめくる。 顔にはどこにも怪我はなかった。 信治は医師の方を見る。 それに答えるかのように、医師は首を横に振った。 「そんな……」 信治は力が抜けたように両膝をつき、涙で病室の床を点々と濡らした。 私はすぐ後ろで、そんな信治の後ろ姿を見つめていた。 すると、涙が頬を伝い、信治の後ろ姿がにじみだす。 やがて、私が病室から移動させられる時が来た。 「未来ーっ!」 信治の悲痛な叫び声が少しずつ遠ざかりながら、何度も病院内にこだましていた……。 気がつくと、光のない真っ暗な闇の中を、何かに誘われるかのように移動していた。 なんだかとても穏やかな気持ちだ。 この先には愛に満ちた幸せな世界が待っている、と感じた瞬間、目の前に眩い大きな光が現れた。 「未来さんですね?」 その光は中性的な澄んだ声で、と言うより脳内に直接響くバイブレーションのように私に語りかけてきた。 「はい……」 一体何者だろう? 「信治さんが数時間後に、体外離脱後の街にやって来ます」 「え? 信治が体外離脱して?」 「どうしてもあなたにもう1度会いたいようです。離脱後の街は未知の異世界。危険がないように事前に下見をしてあげてください。今のあなたなら、すでに使った飛行と瞬間移動の他に、テレパシー、念力、物体すり抜け、金縛り、憑依を使えます。役立てなさい。それから、私たちの世界に来るのですよ」 すると、眩い大きな光は目を開けていられないほどの強烈な光を放った。 私は腕を目の前にかざし、その光を遮る。
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