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雪
私は雪が好きだ。
夜の闇に白が合うのか、世界が白いから夜の闇が合うのかはわからないが、夜に雪が降ると訳もなく外に出たくなる。
以前、私が雪の降る空を見上げていると、子供のように笑うんだね、と言った奴がいる。
思い出すだけで腹が立つ。今度文句を言ってやる。
…きっと、この世界に色が溢れすぎているからモノクロの世界に憧れているのだ。
それとも単に、私に色が無いから、親近感を覚えているだけなのだろうか。
記憶喪失。
私は、事故にあったらしい。
らしいというのも、私にはそんな記憶は無いのだから実感はない。記憶がなくて悲しいとすら思わない。それが悲しいことだとわからないからだ。
周りの人は口々に憐れみの言葉を置いていった。そんなもの、なんの価値もないのに。
ただ唯一
唯一、私に憐れみの言葉を向けなかった奴がいた。
彼は私にこう言った。
新しく頑張ろう。
みんなが過去の私に戻って欲しいと願う中、彼は今の私でいいと言った。
あぁ、思えばそれは去年の雪の降る日だったか。
「やっぱり君は、雪が降ると子供みたいに笑うんだね」
今まで存在感もなかった隣に立つ男がそう告げる。
私はきっと来年も同じことを言われるのだろう。それは、触れてしまえば消えてしまうような、少し悔しい幸せ。
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