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「愛莉さん…自分で分かってんじゃないすか?最近キツイって。肉体的にも精神的にも…」
「うるさい」
愛莉の叫びに近く、甲高い声が通路内に響く。
「ちょっ、あんたのがうるさいから。」
ここまで大きな声では少し離れているとはいえ、ホールまで聞こえてしまうとハナは心配した。
しかし彼女は気にする様子もない。
「あんた…あんたに私の何が分かるのよ。」
愛莉の頬には大粒の涙が伝う。
それ怒りなのか、悲しみの涙なのかは分からない。
ただ、その涙に大きな思いが込められていることは確かである。
「あたしは、ただ…」
「愛莉さん。」
ハナが何か言葉を発すると同時に、別の声と重なる。
その声のする方、ホール側の通路には翔太とは違う黒服の男が立っていた。
「お話し中でしたか?すいませんが、愛莉さん3番テーブルにお願いします。」
先程まで流した涙で化粧が崩れてたからでだろう、愛莉は俯いていて、黒服の男に言葉を返さない。
「愛莉さん?」
黒服の男は返事がないことに不思議そうな顔を浮かべ、彼女の名を呼ぶ。
男の様子から2人のやり取りが他の人達に気づかれていないことが分かる。
愛梨は俯いたまま喉に手を当て、咳払いをする。
「化粧直しをしたいの。終わり次第すぐ行きます。」
「分かりました。お願いします。」
少々震えてはいたが、落ち着いた声でその場を切り抜けた愛莉。
黒服の男は何も気づくことはなく、ホールに戻っていった。
ハナは安心したのか、ハァと息を吐き出す。
「まぁ、頑張ってくださいね」
そして愛莉に声をかけて控え室の中に姿を消した。
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