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「参ったな…」
ハナはドアを閉めた後、顔をしかめながら呟く。
「えぇ~。何がですかぁ?」
突然、間延びしたような甘い声がハナにかけられる。
「あぁ、ゆず。居たんだ」
ゆずと呼ばれた女性は部屋の右側の端に置かれたソファーに座っていた。
そのため、ハナの視界に入っておらず気がつかなかったようだ。
彼女は直ぐに立ち上がり、緩く巻かれた明るい金色をした髪を揺らしながらハナの元へ駆け出した。
そしてくしゃりとした笑みを浮かべ、それを見たハナも自然と顔が緩む。
笑顔が似合う。
ハナが彼女に出会った時に抱いた第一印象だった。
ゆずはほとんど化粧をすることはない。
いや、必要がないと言った方が正しいだろう。
瞳は大きく澄んだ色をしており、肌は驚くほど綺麗で頬がほのかに桃色に染まっている。
そして桃色に染まる頬はふっくらと丸みを帯びている。
決して太っているのではなく、むしろ顔は小さい。
唇はぷっくりと艶やかかであり、少し突き出ている。
そのため、睫毛に少しだけボリュームをつけ長くする程度。
つまりマスカラをするだけで十分なのだ。
そんな化粧気のない彼女だからこそ笑顔が自然であり似合うのだ。
それは子供の様に幼く、可愛い。
化粧で固めた顔では到底できないだろう。
「ねぇねぇ、ハナさぁん。」
ゆずはハナの服を掴み、揺すっている。
「ん、何?」
「久しぶりに私を見て何か気づかないですかぁ?」
「え~。」
ハナは少しだけ面倒くさそうな声をあげ、彼女を見つめた。
ゆずは瞳を輝かせ答えを待つ。
「ごめんゆず。分かんね。」
「えぇ~。もぉ~。」
ゆずは自分の変化を気づいてくれない事に対し、頬を膨らませている。
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