喜びの章Ⅰ

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通路には2人の足音だけが静かに響く。 翔太は沈黙に耐えられないようで、世話しなく顔を動かしてはハナの様子を見ていた。 ハナはまっすぐ前を見つめながら力強い目をしており、その目の色は決意のようなものが込められている。 そんなハナの様子を見た翔太は、ある1つの思いを抱いた。 ハナは青田に呼ばれる事を分かっていた。 いや、呼び出される時を待っていたのではないかと。 例えハナに悪意や非がないとしても御法度である行為を繰り返している以上、オーナーから呼び出されるのは仕方がない。 むしろ当然のことだと言っても良いだろう。 しかし、当然の事とは言え普通であれば動揺を見せてもおかしくはない。 だが、ハナから動揺など微塵も感じることはできず、ましてや決意にも似た表情を浮かべている。 ならば少なくとも、翔太の考えに間違いはないと言えるだろう。 「ったく、何を考えてんだか…」 翔太が小さく呟くと同時にハナは足を止めた。 翔太は何事かと思い、同じく足を止めハナの方に体を向ける。 「翔太…ごめんね」 「えっ…?」 いきなりかけらる言葉に翔太は驚いた。 その弱々しい声。 申し訳ない気持ちに満ちた悲しげな顔。 「いやっ、別に…」 初めて見る彼女の様子に困り、どう返していいか分からない。 「ふふっ…あんた慌てすぎ。とにかく、あんたには迷惑かけないから」 「お前もしかして…」 翔太の言葉にハナは何も返さず、ただ笑顔だけを返した。 翔太は浅くため息をはき、行くぞ。という意味を込めて顔を青田がいる部屋に向ける。 ハナは頷き、また2人は青田が待つ部屋に向け歩きだした。 *
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