喜びの章Ⅰ

2/20

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「こんばんは。ハナでぇす」 アイラインとマスカラを幾重にも重ね、少々つり上がった力強い目元。 他の色には染まらないと思わせる程に黒く、腰元まで伸びる真っ直ぐな髪。 そして、まるで男を挑発するように胸元が大きく開いたドレス。 そんな彼女の声は以外にも甘く、そして柔らかかった。 「おぉ…」 彼女の対面、ソファーに座る男は小さく歓喜の声をあげる。 彼女の美しさに目を奪われているのだろう。 「…ハナちゃんか。綺麗だね」 男は少しだけ間を開けて声をかける。 「いえっ。そんな事ありません。社交辞令でも恥ずかしいですからそんな事言わないでください」 彼女はさっと両手で顔を覆い、首を俯かせた。 男に言葉はないものの、少々だらしのない笑顔を浮かべる。 彼女の仕種については、好き嫌いが分かれるだろうが、少なくともこの男は嫌いではない。 むしろ好きな部類なのでだろう。 「いやぁ…本当に綺麗だよ。というより可愛い。まぁ、ハナちゃん座ってよ」 男は急かす様に促す。 「はい。失礼します」 彼女は笑顔を浮かべながら男の右側になるよう、ソファーへ腰をおろした。 「僕は田辺って言います。あっ、そうだ…好きなもの飲んでいいからね」 「はい、ありがとうございます。それじゃ田辺さんと同じものをいただいてもいいですか?」 田辺はもちろんと笑顔で言葉を返した。 ハナも同じく笑顔を返して軽くお辞儀をした後、黒服の男性を手招きで呼び、飲み物を注文する。 *
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加