喜びの章Ⅰ

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しかし、その時… 「失礼致します」 丁重な口調で黒服の男がハナ達が座るソファーの脇に近づき、膝をついた。 「田辺様。ご指名の愛莉がそろそろ参ります。ハナさんはこちらへ。」 黒服の男の言葉に田辺は眉をひそめる。 ハナとの時間が終わってしまうことが残念で仕方ないのだろう。 「それじゃ田辺さん。私は戻りますね。」 残念ですけど。と一言添えた後、ハナは立ち上がり深めに頭を下げて田辺のもとから去っていく。 田辺のもとから去ったハナはホールの端にある細い通路へ入り、控え室へと向かっていた。 「おいっ、ハナ」 控え室に続く通路の途中で背後から声がかけられる。 ハナが振り返るとそこには先程の黒服の男が立っていた。 「あぁ、翔太。良いタイミングで来てくれて助かったよ。」 「いやっ、別に良いけど…お前いい加減にした方がいいぞ。」 翔太と呼ばれる男は長く垂れる髪をかき上げながら言う。 「はぁ?またその話?」 田辺に向けていた甘い声とは程遠く、ハナの声は低い。 「田辺さん、多分ってか絶対指名をお前に変えようとするぞ。これで何人目だよ。」 「知らねえよ。別に今までの指名を変えろなんて言ったことないし。おっさん達が勝手にしたんじゃん。あたしに文句言うなよ」 ハナは面倒くさいと言いたげな顔で深いため息を吐いた。 「そうかもしれないけど、指名を変えるのが良くないって知ってるだろ。結果はどうであれ悪く言われるのはお前なんだよ。」 翔太もハナに続き深いため息を吐いて、通路の壁に背中から寄りかかり話を続ける。 「しかも、お前だけじゃなくて俺もな…」 「あっそ。」 翔太の言葉を聞いてか聞かずか、ハナは一言だけ残して控え室に向かって歩き出す。 背後から翔太が待てよと声をかけているが、ハナはそれを無視して足を止めることはしなかった。 「翔太、必死だな。」 翔太の必死な姿が面白かったのかハナは小さく吹き出す。 やがて控え室の前に着き、扉を開こうとした時… 「おいっ。ハナ。」 またもや背後から声をかけられた。 その声は聞く者にはっきりと伝わる程に怒りがこもっている。 ハナは二度目のため息をはき、ゆっくりと振り返る。 「何ですか。愛莉さん。」 そこには愛莉と呼ばれる女性がいた。 *
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