人間讃歌

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するとおじさんは僕の態度に気付いて笑うのをやめる。 「じゃあ布団で一緒に寝ようか」 「えっ?」 まさかそういう展開になるとは思わず目を見開く。 この小さな布団に二人なんて無理だ。 「ほれおいで」 寝そべった彼が僕を招く。 仕方がなくため息をつくと隣に寝た。 「ダメだろ。それじゃ布団からはみ出る」 「なっ、おじさんだって」 「オレは出てない」 「嘘!」 僕以上にはみ出た彼の体は畳の上で寝ている。 (やっぱり二人は無理だ) そう思って起き上がろうとしたら腕を引っ張られた。 「うわわっ!」 僕は彼の体に密着する。 まるで抱き抱えられるような格好になって思わず慌てた。 「少しの間だけ我慢してくれ。給料日になったらもうひとつ敷き布団買う」 「えっ……あ……」 すぐそばにおじさんの顔がある。 密着して抱き合うように寝れば、お互い布団の上で眠れた。 だけどこんなにも人間と近づいたことが無い僕は緊張してしまう。 体は硬直し、どうしたらいいかわからなかった。 「わかっていてもそれだけあからさまに嫌がられると傷つくな」 おじさんは苦笑する。 腰に回された手が離れそうになって、僕は自分からおじさんにくっついた。 「……い、嫌じゃない……です」 「え?」 「でもこんなに人間の傍に来たことがないから緊張してしまって」 ぬくもりを感じて心中は戸惑いに揺れる。 人間の体がこんなにも暖かいなんて知らなかった。 この人はそれに気付いているのだろうか? ――否、僕の体が冷たいから異様に暖かく感じるのだろう。 それに気付いて僕は慌てて離れた。 「あっごめんなさい。僕の体っ、冷たいですよね」 せっかく布団で暖まっているのに冷たい体が邪魔をしている。 だけどおじさんは首を振った。 「オレは暑がりだからちょうどいいよ」 「う、嘘だ!」 秋が深まりこんな布団でも満足に暖まらないだろう。 おじさんの嘘が歯痒くて苛立った。
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