人間讃歌

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「オレは大丈夫!」 「嘘!」 その後、結局話は平行線のまま続いていた。 僕は絶対に折れなかったし彼も頑固なのか意見を曲げない。 だがおじさんの一言にこの場の空気が変わった。 「…真白はオレの願いを叶えてくれるんだよな」 「え?」 いきなり突拍子もないことを言われて僕の思考が止まる。 「なら一緒に寝たい。それがオレの願いだから」 「……っ…」 まさかそんなことに願いを使われるとは思わなかった。 つくづく彼は不思議な人。 「あっ―…」 するとまだ何も言ってない僕を尻目に彼はまた僕を抱き寄せる。 先程と同様布団の中で包まる二人。 「まだ僕は叶えるなんて…」 おじさんの腕の中でもがき反抗するがビクともしなかった。 おじさんはがっちり僕を抱いている。 「おやすみ」 そう一言呟くと彼は目を閉じた。 「ひ、卑怯…です…」 僕の言葉は全部無視。 彼を助けるために現れたのに気を遣われている。 自分の幸せと言っておきながら、本当は僕のことしか考えていない。 ――じゃあ、今日のことも全て僕を思ってしてくれたのだろうか? 自分の幸せを叶えてもらうためだと思っていたのに。 「変な…人間」 僕は小さく呟いた。 その声は闇に溶ける。 そばにある温もりが本当に暖かいから変な気分だ。 ……まるで僕まで人間になったような錯覚を起こす。 そんな自分の感情に苦笑いしながら僕は目を閉じた。 次に目が覚めたのはピピピピと鳴る目覚まし音のせいだった。 「……ん、朝か」 眠い目を擦って音のほうに手を伸ばす。 なんとか目覚まし時計を止めると、自分の寝床が広いことに気付いた。 「おじさん?…………あ」 辺りを見回せば畳みの上に大の字になって寝そべる彼の姿がある。 これじゃ布団も毛布も意味が無い。 「……はぁ」 僕はため息を吐くと彼の体を揺さ振った。 「……ん、ぁ……」 微かに意識を取り戻すがおじさんの中では些細なこと。 まったく起きる様子がない。 「起きて、おじさんっおじさん!」 今度は耳元で怒鳴ってみた。 「……るさい……」 言葉は発するが無意識である。 すぐに深い眠りに落ちると変わらぬ寝息をたて始めた。
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