人間讃歌

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おじさんは顔を掻く。 言いづらいといった彼の心境がありありと伝わった。 「オレっ……中学高校と男子校だったし大学でも女の子と遊ばなかったから」 「……は……?」 「だからっその、上手く接することが出来ねぇんだよ!」 猛烈に顔を赤らめたおじさんは僕を睨む。 まるで笑われることを覚悟しているような眼差しに僕は頬笑んだ。 ……それは決してバカにしているという意味ではない。 「……変じゃないです」 素直にこの人が可愛いと思ったんだ。 僕自身こんな気持ち初めてでうまく説明が出来ない。 「真白?」 僕はゆっくりとおじさんの手を取り握り締める。 その掌は僕の手よりずっと大きかった。 「それを治してあげるから……」 この人の良さに多くの女性が気付きますように。 彼の中にある戸惑いや恥じらいが消えますように。 僕の祈りは神へと届く 「……っ……やめろよ!」 だが途中で彼が僕を突き放した。 思わず目を見開く。 目の前には不貞腐れて横を向いたおじさんがいた。 「え? ……な……んで……」 「……いい」 「どうして!? おじさんの女性問題が解決するんですよっ」 まさか突き放されるとは思わなかった。 もっと幸せになりたいと願う人間は沢山見てきたが、拒絶する人間はみたことがない。 「……いいんだよ…」 おじさんは軽く笑って僕の手をとった。 そして今度は彼が僕の手を握り締める。 「真白はこうして両手で握り締めながら願えば叶えることが出来るのか?」 「えっ……ぁ、はい……」 質問の意図が読めず首を傾げた。 おじさんは僕を見下ろす。 「……そう」 だけどそれ以上何も言わなかった。 僕の手を離し、頭を撫でると自分の仕事場に戻っていく。 (……な、なんなんだろう) 僕はその後ろ姿に?マークを浮かべた。 あれじゃまるで僕が願いを叶えること自体、自制させているみたいだ。 でもそれでは僕がここにいる意味がない。 何より忘れてはならないのは、彼の魂が僕を呼んだということだ。 「……はぁ……」 僕はよくわからない彼の心理を探るように見つめ続けた。
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