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「真白、お前ずっとオレを睨んでただろ」
「べっ別に睨んでたわけじゃ」
仕事帰り僕らは並んで歩いていた。
すると突然おじさんの携帯が鳴る。
プルルルル……。
おじさんはポケットから携帯を取り出すと電話に出た。
「おー。どうしたんだよ」
何やらおじさんは楽しそうに笑っている。
その様子を見ながら相手は誰なんだろう――なんて、余計なことを考えていた。
「――真白、悪いんだけどさ」
「え……?」
いつの間にか電話を切っていたおじさんは僕を見ている。
「これから友達と飲みに行くから先に帰ってろよ」
そう言って鍵を差し出した。
申し訳なさそうに笑う彼に寂しくて鍵を受け取らない。
「……大丈夫」
「真白?」
「僕は鍵がなくても部屋に入れるから」
それが些細な疎外感だとわかっていても上手く笑うことが出来なかった。
そのままおじさんを置いて駆け出すと闇の中へと消えていく。
自分自身よく分からなかったんだ。
疎外感なんて感じてもしょうがない。
初めから僕とおじさんの間にはなんの絆もないのだから。
きっと初めて自分を人間として扱ってくれたからこんな気持ちになるのだ。
そう納得する他なかった。
僕にとっては未知なる感情だったから。
「……はぁ……」
だが問題はこの体。
頭では納得しているのに体は帰りたくないと言っている。
むしろおじさんの魂を求めて彼のいる場所へと向かおうとしていた。
「うぅ……気になる」
そうだ。
簡単に言えばおじさんの交友関係が知りたいのだ。
なんで? ――なんて今は問い詰めたくない。
それこそ未知なる無限の螺旋へ落ちていきそうだからだ。
「行っちゃお」
どうせおじさんに見つからなければいい話。
僕は自分の好奇心には勝てず、宙に浮くとおじさんの魂へ向かって飛び出した。
――それから僕が辿り着いたのはどこかの居酒屋だった。
日本家屋の作りなそこは天井が高い。
僕は骨組みの木材伝いに歩いて回る。
上から見下ろせば店内の様子が丸わかりだった。
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