人間讃歌

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「いた!」 見回せばおじさんが数人の男たちと楽しそうにお酒を飲んでいる。 女性が居ないことに内心安心していた。 僕はおじさんの席の真上にくるとその材木の上に座る。 話してる内容は店内の騒がしさとBGMのせいで聞こえなかった。 だけどおじさんが楽しそうに笑っていたからどうでもいい。 彼の笑い顔が好き。 男性にしては珍しく顔をクシャクシャにして笑う。 嬉しい時は素直に喜び、楽しい時は素直に笑う。 子供なら当たり前なことなのに、大人になるにつれ少しずつ忘れてしまう感情。 あの人はそれを未だに持っているから、美しい魂をしているのだろうか。 おじさんを見つめながら、ふと考え込んでしまう。 「――……あっ!」 すると足をブラブラさせていたせいで、わらじが脱げてしまった。 僕のわらじはおじさんのテーブルに落ちる。 「うわぁっ!?」 おじさんだけが素っ頓狂な声を上げた。 それを周りはゲラゲラ笑う。 僕は気付かれたらまずいと慌てて逃げようとした。 「……っ……!」 だがおじさんの方が行動は早い。 不審に思い見上げた先で僕を見つけた。 目が合った僕は逃げるように店を飛び出す。 「っ……待てよっ――!」 するとおじさんは店を出た僕を追い掛けてきた。 いつまでも必死に追い掛けてくる彼に観念すると、僕は地上に降り立つ。 「はぁ、はぁ……真白っ…」 僕の前まで来たおじさんは力なく着物の裾を握ると名を呼んだ。 「ごめんなさ……ごめっ……ごめんなさ……ぃ……」 来るなと言われたのに来てしまった。 内緒でおじさんの様子を覗いていた。 それは相手にとって気分の良いものではない。 怒られると思って僕は目を瞑った。 「……ぁっ……」 すると後ろからふんわりと抱き締められた。 おじさんから香るのは微かなタバコの匂い。 「もう、そんなに謝んな」 耳元で呟かれたのは想像以上に優しい声。 今にも泣きそうな震える体をしっかりと包み込む。 「お……じさ……」 それだけで安心感が広がる。 またしてもよく分からない感情に支配されて僕の心は揺れた。 「一人で淋しかったのか?」 あやすように背中を撫でられて何度も頷く。 おじさんのスーツを握り締めた。
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