421人が本棚に入れています
本棚に追加
「いた!」
見回せばおじさんが数人の男たちと楽しそうにお酒を飲んでいる。
女性が居ないことに内心安心していた。
僕はおじさんの席の真上にくるとその材木の上に座る。
話してる内容は店内の騒がしさとBGMのせいで聞こえなかった。
だけどおじさんが楽しそうに笑っていたからどうでもいい。
彼の笑い顔が好き。
男性にしては珍しく顔をクシャクシャにして笑う。
嬉しい時は素直に喜び、楽しい時は素直に笑う。
子供なら当たり前なことなのに、大人になるにつれ少しずつ忘れてしまう感情。
あの人はそれを未だに持っているから、美しい魂をしているのだろうか。
おじさんを見つめながら、ふと考え込んでしまう。
「――……あっ!」
すると足をブラブラさせていたせいで、わらじが脱げてしまった。
僕のわらじはおじさんのテーブルに落ちる。
「うわぁっ!?」
おじさんだけが素っ頓狂な声を上げた。
それを周りはゲラゲラ笑う。
僕は気付かれたらまずいと慌てて逃げようとした。
「……っ……!」
だがおじさんの方が行動は早い。
不審に思い見上げた先で僕を見つけた。
目が合った僕は逃げるように店を飛び出す。
「っ……待てよっ――!」
するとおじさんは店を出た僕を追い掛けてきた。
いつまでも必死に追い掛けてくる彼に観念すると、僕は地上に降り立つ。
「はぁ、はぁ……真白っ…」
僕の前まで来たおじさんは力なく着物の裾を握ると名を呼んだ。
「ごめんなさ……ごめっ……ごめんなさ……ぃ……」
来るなと言われたのに来てしまった。
内緒でおじさんの様子を覗いていた。
それは相手にとって気分の良いものではない。
怒られると思って僕は目を瞑った。
「……ぁっ……」
すると後ろからふんわりと抱き締められた。
おじさんから香るのは微かなタバコの匂い。
「もう、そんなに謝んな」
耳元で呟かれたのは想像以上に優しい声。
今にも泣きそうな震える体をしっかりと包み込む。
「お……じさ……」
それだけで安心感が広がる。
またしてもよく分からない感情に支配されて僕の心は揺れた。
「一人で淋しかったのか?」
あやすように背中を撫でられて何度も頷く。
おじさんのスーツを握り締めた。
最初のコメントを投稿しよう!