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「怒って……ないんですか? ……僕」
「ん、怒ってないよ」
そう言っておじさんは優しく微笑む。
あまりに柔らかく笑うからこっちまで朗らかになってしまう。
「もうお前を一人にしないから安心しろ――な?」
少し強く抱き締められた僕は触れた体の熱さに身を縮めた。
その胸にうずくまって何度も頷く。
子供扱いをされてもしょうがない。
この人の前では小さな子供になってしまうのだから。(……なぜだろう?)
それが歯痒くもあり、くすぐったくもあった。
胸の奥に燻る感情の波についていけない。
それが余計に焦れったくなって苦しかった。
(僕はただの座敷わらしなんだ。彼を幸せに導くために現われた妖怪なんだ)
暖かな腕に抱かれて僕は延々とそんなことを考え続けた。
「じゃあ帰るか!」
不意におじさんの声が聞こえて僕は見上げる。
「えっ……でも飲み会は」
「いいよ。店を出る時、帰るって伝えておいたし、あとでメールしとく」
そういうなりおじさんは僕の手を取った。
そして歩き始める。
僕は引っ張られるように歩きだした。
「わわっ!」
「あとで弁当屋に寄っていこうぜ」
おじさんは鼻歌混じりで見るからにご機嫌そうだった。
僕は内緒でおじさんをチラ見する。
勇気を振り絞って手を握り返した。
「あっあの!」
「ん?」
「あの僕でよろしければご飯作りましょうか?」
恐る恐る問い掛けてみた。
おじさんは目が点になっている。
「えっお前メシが作れんのか?」
「なっ……おじさんは僕を子供扱いし過ぎです!!」
やっぱりおじさんに子供扱いされると悔しい。
僕は口を膨らませる。
すると彼はゲラゲラ笑って僕の頭を撫でた。
「ごめんってば~」
「おじさんのばか」
それが余計に気に障る。
「あっほら。お菓子買ってやるから! ……な?」
「もうばかばかばかー!」
どこまでいっても子供扱い。
僕はおじさんを叩くと口を膨らませて怒った。
それでもおじさんはニコニコしながら笑っているだけだった。
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