人間讃歌

3/47
421人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
座敷わらしを必要としている人から呼ばれて、この地に降り立った。 目を開ければ汚い部屋の中。 台所はお皿や鍋も使いっぱなし。 布団も洗濯物もそのまんま。 (やれやれ…。今回僕を呼んだ人も幸せではなさそうだ) 僕は座敷わらし。 古くから語り継がれる童の姿をした妖怪。 神様は幸少ない人間を幸せに導くために僕らを作った。 ――魂が呼ぶ。 苦しいと。 でもただ単に苦しくたって僕らは現れない。 呼んだ魂が美しくなければ僕らに声が届かない。 どうやら現界という所では徳を積んだからといっても幸せになれないらしい。 僕らの世界ではお金の代わりに徳が必要とされているからとても不思議。 でも神様は仕方がないとお嘆きなさった。 彼らは目に見える数字しか頼るものが無いのだから。 哀れに思った神様は、僕らをお造りになった。 そんな徳の多い薄幸な人間を幸せにするために。 でも神様は人間を侮りすぎていた。 彼らを幸せにすることは、とても難しいことだったのだ。 お金が欲しいと言うから授ければもっととせがむ。 富を築かせてやれば美しい伴侶を欲しがる。 それを得たなら優秀な子孫が欲しいという。 それすら与えたなら何か楽しみや刺激が欲しいと言う。 そして最後には不老不死の体を欲しがり死を恐れる。 さらに言えば人間は愚かだったのだ。 自分が幸せになればなるほど、精神が肥え鈍感になってしまう。 結果性格が歪んでいく。 そして最後には今までの徳を全て使い果たし、罪を作ると僕らを消していく。 (ああ、なんて愚かなのだろう) いつも彼らから離れるときはそう思う。 手にした願いが叶えば幸せになれるはずなのに……。 彼らは幸せになれると言ったのに。 僕は薄暗い部屋の中でため息をつくと、今回の人間を待ち続けた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!