人間讃歌

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――それから何度もしつこく話すとおじさんはやっと納得してくれた。 無論、理解はしてくれそうにないけど。 「とにかく寒いだろ。お茶でも飲めや」 おじさんは汚れたスーツの埃を手で払うと靴を脱いだ。 そしてすぐ隣の台所に立つ。 「そういえばお前、人間じゃないのにお茶なんか飲めんのか?」 「あっはい。僕は一応幽霊じゃなくて、妖怪の一種なので現界の物も食せます」 「……はぁ、ああそうですか」 普通に答えたつもりなのに彼は投げやりに呟いた。 僕の存在だって半信半疑なのだから仕方ない。 (とりあえずこの部屋で生活できるようになったのだから良いだろう) 僕は不服そうな彼の後ろ姿を見ながら何度も頷いた。 「せっかく来たのに汚くて悪いな」 おじさんは無理矢理場所をあけると僕をそこに座らせた。 そしてお茶を差し出す。 「いただきます」 律儀に湯呑みを受け取るとお茶を口に含んだ。 「熱っ!!」 すると想像以上の熱さにむせる。 湯呑みを持っていられなくて机に置くとケホケホと咳き込んだ。 「何やってんだお前」 「けほっ、だってお茶という飲み物がこんなに熱いなんて知らなかったですから」 「は?」おじさんは驚きながらお水を持ってくる。 それを受け取ると喉を冷ますように飲み干した。 「僕は誰かの祖霊でもないからお供え物は貰えないし、霊界では食べなくても生きていけるから」 こんな時、座敷わらしは中途半端な存在だと気付かされる。 ほとんどの人間は僕の姿が見えないから気付いてくれない。 だからといって自分から物を盗んでまで食べようとは考えない。 何より変に動き回れば怪奇現象扱いをされ、人間を驚かせてしまう。 そうすると神様に怒られてしまう。 だから温かいお茶なんて初めて飲んだのだ。 「へぇ~なんかもったいないな」 「そうなんですか? 僕は便利だと思いますけど」 おじさんは納得いかなそうに頭を掻く。 そして立ち上がった。
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