人間讃歌

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「よしっ何か美味いもんでも食わせてやるよ」 「えっ?」 「ちょっと待ってろ。今買ってくるから」 「あ、ちょっ……!」 おじさんはカバンから財布を取り出すと部屋から出ていってしまう。 僕は止める間もなくポカーンと口を開けた。 (一体なんなんだ?) おじさんの行動がよくわからなくて顔をしかめる。 テーブルの上には彼の湯呑みが置きっぱなしだった。 一口も飲んでいない。 すると15分ほど経ったところでおじさんが帰ってきた。 「悪い。ちょいと遅くなった」 「おじさん?」 「ほれ。たくさん美味しいおかずを買ってきたから」 おじさんはそう言って袋からたくさんのパックを取り出す。 小さな容器には種類の違う食物が入っていた。 「遠慮しないで好きなだけ食えよ!」 テーブルの上に全部の容器を置くと彼は嬉しそうに笑う。 僕は目をパチパチさせながら、色とりどりのおかずを見回した。 「……いただきます」 手を合わせてお辞儀をする。 そして箸をつけた。 恐る恐る口に運びゆっくりと味わう。 「……美味しい」 食べたことが無い味に驚きながら呟いた。 「おおっそうか! じゃんじゃん食え」 僕の一言がよほど嬉しかったのかおじさんは顔をクシャクシャにして笑った。彼は本当に不思議だ。 つい先程まで僕を怖がり、信用してくれなかったのに、どうしてこんなによくしてくれるのだろう。 (途中で理解してくれたのかな?) 僕の方が彼の心情を理解できなくて考え込む。 それでも彼は笑っているだけだった。 「おじさんは食べないんですか?」 「あぁオレ? オレのことは気にしないで好きなだけ食っていいぞ」 「でも……」 躊躇する僕の頭をポンポン撫でる。 大きな手のひらの感触に僕はそれ以上何も言えなくなった。 「辛かったよな」 呟くおじさんに見つめ返すだけ。 辛いなんて感情をもったことがないから否定も肯定も出来なかった。
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