人間讃歌

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「よーし。なら、オレが付けてやるよ」 「え?」 「お前の名前をさ!」 そういうなり布団の上で唸り始める。 状況からいって口を挟めなかった。 必要なくたって彼の善意を無駄にすることはない。 おじさんが僕の名前がなくて困るなら付ければいい。 そんな風に考えながら彼を見ていた。 「――――真白!」 「はっ?」 「真っ白な着物を着てたし、肌もこんなに白いから」 だから真白。 彼は名前を付けるのが苦手なのか、自分で言っておきながら照れている。 「変か?」 「いえ、とても素敵な名を頂戴して僕も嬉しいです」 僕は布団の上に手を置き丁寧にお辞儀をした。 それと同時に変な気分になる。 自分の中で真白という名が定着するのだろうか。 そんな疑問が頭を掠めたが彼には何も言わなかった。 「じゃあ真白。寝ようか」 「えっ……あの」 すると、おじさんはタオルケットで自分を包み、座布団を枕代わりにしている。 布団一式は僕へ譲ってくれた。 「僕は別にどこでも寝れますから。だから」 「いーからいーから」 僕が何を言ってもおじさんは聞き入れない。 さすがに家主を置いて布団で寝るわけにもいかず、僕はおじさんのタオルケットを掴んだ。 「おじさんがそれで寝るなら、僕も一緒にそれで寝ます」 「何言ってんだ? オレのことは気にすんなって」 「やだっ!」 僕は口を膨らませて駄々をこねるように怒った。 タオルケットを掴む手に力を入れる。 「ぷっ――……」 すると急におじさんが吹き出した。 そのままクスクスと笑い始める。 「なっ」 僕は何がおかしかったのか戸惑うばかり。 だけど彼は構わず笑い続けた。 「悪いな。笑いすぎた」 「むぅ」 「ちゃんと子供らしい一面があるんだと思ったらおかしくて」 そう言っては、また笑っている。 僕は馬鹿にされているのかと眉をひそめた。
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