序章 管理人緑真ミサキ

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 楽しみにしていた花嫁姿すら見られないまま、祖母は逝ってしまった。  そう考えた瞬間、突然温かいものがぽたぽたと流れ落ちていく。  今、僕はどうしたのか分からない。  けど、視界がよく見えない。 「お、おい……」 「ふぇ……?」 「……ったく、ほら、これで拭け」  鬼崎さんが出したのは、白いハンカチだった。  それを自分に向けて渡してくる。  どうしてハンカチを渡してくるのか不思議に思ったが、今僕が何をしているのか理解が出来た。  今の僕は、泣いているらしい。  視界がよく見えないのはそのせいだ。  鬼崎さんのハンカチを受け取った後、涙を急いで拭き、そしてそれで鼻をかむ。  流石に鼻をかまれるとは思っても居なかった鬼崎さんは驚いている顔をしていた。  ずるっと鼻水の音をさせた後、鬼崎さんに視線を戻した。 「……ハンカチ、洗って返します」 「いや、いらねェ」 「すんません……でも、本当にあっという間だったんです」 「……ああ」 「だって、あんなに元気だったのに……僕が大学合格した電話をすると、本当に嬉しそうに電話で喜んでくれて……」  そしてその後、祖母は居なくなった。  二度と、戻ってこない住人になった。  もう二度と、あの優しい笑顔や、優しい温もりを感じることが出来ないんだ。 「……けど、お前はまだ良い方だ」 「……え?」 「お前達『人間』は老いて死ぬ。そうすれば天国でお前は美鶴に会えるんだ……けど俺は自殺しないかぎり、殺されない限り、天国のアイツに会うことすら出来ないんだから」 「……鬼崎さん?」  今、彼が言った言葉が全然理解が出来なかった。  呆然としながら鬼崎さんの顔を見つめると、座っていた彼の顔が切り替わる。  先ほどの悲しい顔ではなく、最初に見せてくれた普通の顔。 「さて……今日からお前が管理人だが……お前は俺たちを何処まで知っている?」 「え?あ……えっと……そんなに知っているわけではないのですが……祖母からあなたたちの事は少しだけ聞いています」 「たとえば……」 「えっと……『変人だが面白い奴ら』……と」 「……美鶴の奴……あいつらはともかく、俺まで変人扱いか」
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