237人が本棚に入れています
本棚に追加
不思議だった。
どうしてか、その赤い瞳に見られていると、緊張して手が動かなくなってしまうように感じてしまう。
お茶の用意を終えた僕は、ゆっくりと鬼崎さんにお茶を渡そうとしたが、その手が微かに震えているのがわかる。
そんな手を、鬼崎さんは何も言わずただ見つめ、煙草を指に銜えた。
「――確かに、俺は美鶴を愛してた。けど、それは昔の話だぞ?」
「む、昔の話でも、弧宮さんみたいにおばあちゃんの事、今でも大事に想ってくれているんでしょう?」
「……まぁな。俺がこうしてここに居られるのも、美鶴のおかげだし」
「え?」
灰皿に煙草を捨て、鬼崎さんはもう一度、僕に視線を向ける。
貫くような、目をしているように感じながら、鬼崎さんは最初、何か考え込むような素振りを見せた後、僕に向けて口を開く。
「そもそもここのアパートに居る俺、真太郎、そして風の三人は何かしらあった妖怪(やつら)だ。俺も昔色々あって、今こうしてここに居る。そして、美鶴のあの優しい手に差し伸べられて……それで俺達は人間である美鶴と言う存在を愛した」
「……」
「俺もその一人。けど所詮美鶴は人間。同じように人間の男に恋をして、そしてあっけなく死んでいった」
「……鬼崎さん」
「……悪ィ、何でもねぇや」
鬼崎さんは背を向けた後、僕が用意したお茶を一口、口の中に入れた。
僕はただ、何も言えない状態が続いた。
その時話してくれた鬼崎さんの表情がとても辛く見えたのは、きっと間違いないであろう。
あの時、烏丸さんが僕に話してくれたように、鬼崎さんも本当に祖母の美鶴を深く愛していたのだろう。
(……あれ?)
不思議だった。
胸が、多少チクチクしてきた。
こんな痛み、正直言って、初めてだった。
もう一度、僕は鬼崎さんの背中を見た。
最初のコメントを投稿しよう!