第八話 鬼はただ、普通の愛を求めただけで

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 不思議だった。  どうしてか、その赤い瞳に見られていると、緊張して手が動かなくなってしまうように感じてしまう。  お茶の用意を終えた僕は、ゆっくりと鬼崎さんにお茶を渡そうとしたが、その手が微かに震えているのがわかる。  そんな手を、鬼崎さんは何も言わずただ見つめ、煙草を指に銜えた。 「――確かに、俺は美鶴を愛してた。けど、それは昔の話だぞ?」 「む、昔の話でも、弧宮さんみたいにおばあちゃんの事、今でも大事に想ってくれているんでしょう?」 「……まぁな。俺がこうしてここに居られるのも、美鶴のおかげだし」 「え?」  灰皿に煙草を捨て、鬼崎さんはもう一度、僕に視線を向ける。  貫くような、目をしているように感じながら、鬼崎さんは最初、何か考え込むような素振りを見せた後、僕に向けて口を開く。 「そもそもここのアパートに居る俺、真太郎、そして風の三人は何かしらあった妖怪(やつら)だ。俺も昔色々あって、今こうしてここに居る。そして、美鶴のあの優しい手に差し伸べられて……それで俺達は人間である美鶴と言う存在を愛した」 「……」 「俺もその一人。けど所詮美鶴は人間。同じように人間の男に恋をして、そしてあっけなく死んでいった」 「……鬼崎さん」 「……悪ィ、何でもねぇや」  鬼崎さんは背を向けた後、僕が用意したお茶を一口、口の中に入れた。  僕はただ、何も言えない状態が続いた。  その時話してくれた鬼崎さんの表情がとても辛く見えたのは、きっと間違いないであろう。  あの時、烏丸さんが僕に話してくれたように、鬼崎さんも本当に祖母の美鶴を深く愛していたのだろう。 (……あれ?)  不思議だった。  胸が、多少チクチクしてきた。  こんな痛み、正直言って、初めてだった。  もう一度、僕は鬼崎さんの背中を見た。
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