西日

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「く、く、らす、の…ひ…と……」 「ふぅん」 皆瀬くんが興味なさそうに手元の本を開いた。 私もまた、積まれたレシピ本から参考にするものを探す。 隣には、学校で話をしたことのない、男の子。 変な気分だ。 隣に皆瀬くんが来ただけで、そわそわ落ち着かない。 ケーキを見ながら、意識は別なところに行っていて、集中できない。 ぺら、ぺら。 紙の擦れる音。 違うテーブルに座っている中学生が、ノートを広げて勉強している。シャープペンシルをノックする音が聞こえた。 静かだと思っていた図書館は、こんなに音に溢れていた。 かるく頭を振って、また本を眺める。 ……結局、彩りがいいということで、フルーツタルトに決めた。 タルト生地を買えばそんなに難しくないし、いいと思ったのだ。 鞄からノートを取り出して、レシピを書き写す。 こういうレシピ本は、作りなれていないとよくわからなかったりする。 自分なりに注釈を加えながら、絵や図を書き入れる。 ……できた。 ぱたんと本を閉じると、皆瀬くんがノートを覗き込んだ。 「……作るの?」 私はふるふると首を振った。 作るの、私じゃないし。 その瞬間、ふにっと鼻を摘ままれる。 えっと……なんだろう、これ。 皆瀬くんは肘をテーブルにつきながら、私の鼻を摘まんでいる。
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