西日

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この地域の図書館は広く、いくら読んでも読んでも読んだことのない本は増えるばかりだった。 今まで借りていた本を返却し、新たに借りようと図書館をうろうろと見て回る。 あ、これにしよう。本棚の一番上の段にその文庫本はあった。 手を上に伸ばしても、身長147cmの私には厳しかった。 背伸びをしたり、ジャンプをしたりして、なんとか取ろうとしてみる。 と、誰かの腕が伸びて読みたい本を抜き取った。 思わず「あ」と声をあげてしまう。 「別に本、取ったりしないよ。アンタが読みたいの、これだろ?」 本を持っているのは、背の高い男の子だった。 目や鼻が理想のかたちで、多分凄く顔はいい。 なのに、めんどくさそうに細められた目と、眉間に皺で魅力が半減してしまっていた。 同じ学校の男子制服を着ている。 ブレザーの下にカーディガンを着込んでいて、気崩された感じはない。 図書館に寄るくらいだし、真面目な男子高校生なのだろう。 男の子の手元にあった本は、今私の手にある。 私は正直、戸惑った。 ありがとうと言いたい。 でも喋ったら嫌われないだろうか、と。 “ありがとう”のたった五文字の言葉でさえ、すらすら喋ることができないのだ。 「ジャンプするとき、足音、ウルサイ。メイワク。」 男の子はふうと息を吐き、何事も無かったように、背中を向けた。 「あ、……」 ……結局、言いそびれてしまった。
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