西日

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かといって、教室で話をすることはない。そもそも私は話すことがとても下手だ。 「ねえ、真代!」 ふっと顔をあげると、そこにはクラス委員の鈴木さんが立っていた。 鈴木さんは小学校からクラスが同じで、ずっと前から私を気に掛けてくれる、世話焼きの明るい人だった。 「数学のノートできた?今日提出らしいから、やっておいたほうがいいよ!」 「は、い…」 私の声は、クラスの喧騒に紛れてしまうほど小さい。 鈴木さんはにっこり微笑む。 「真代、今日私お弁当なんだ!一緒にご飯食べよう!」 鈴木さんはいつも学食で、クラスの女子で学食に行く姿を良く見ていた。 「…え……」 「私と志帆と三人でさ!真代いっつも一人でしょ?」 「わ、わた、し…」 上手く喋れないから。 そんな事情、知ってるはずなのに、どうして……。 鈴木さんは、きっと、人助けのつもりなのだろう。 私は見るからに根暗で、その上友達もいない。 鈴木さんからすれば私はきっと可哀想なのだろう。 だから、人助け、なのだ。 私は俯くことしかできなかった。 うまく、断りの言葉も言えない、のだから。
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