人食らいの妖怪

2/32
前へ
/40ページ
次へ
荒廃した夜の街を、一つの影が飛んでいく。 辺りに人影はなく、あるのは見るも無残な一つの文化の終焉だけである。 瓦礫の散乱する街道を飛んで飛んで降り立ったのは、さびれたビルのドアの前。 影は軋むドアを開け、地下へと続く階段下へ消えた。 階段を下りた先には一つのドア。そのドアを開けると… 『レディースアーンドジェントルメーン!!諸君、今日はここ、カジノ「HITOZATO」で思う存分稼いでいってくれたまえ!』 地上の風景からは想像できないほどの熱気があった。 影はそんな熱気から逃げるようにバーテンダーのいる静かなカウンターへ向かう。 「マスター、Mカクテルを一つ。」 「かしこまりました。」 バーテンダーに注文を終え、被っていたフードを取る。 「ふう…。いつまで経ってもここの空気は慣れないな。」 そこにはまだ幼さの残る若い女の顔があった。 「ハハハ、一番お気に入りのカクテルを頼んでおいて豪気なもんだ。」 一人の男がカウンターの女に話しかける。 「大佐か、お気に入りなんかじゃない。他に飲みたいのがないだけだ。」 「フフフ、まあ、そういうことにしておいてやろう。」 「大佐」と呼ばれた男は女の隣の席に座った。 男はバーテンダーにロックのウィスキーを頼むと、女の方へ向き直る。 「久しぶりだな。魔理沙。」 「大佐こそ、会わないうちにだいぶ老けたんじゃないか?」 魔理沙と呼ばれた女は微笑を浮かべながらそう返す。 「俺はまだ30だぞ?老けるはずがない。」 男は肩をすくめて半分あきれたように言った。 「はん、どうだか。」 魔理沙は来たばかりのカクテルを一口あおる。 「口が悪いのは相変わらずなようだな。それに俺はもう大佐じゃない。いい加減「大佐」って呼ぶのはやめてくれよ。」 「私にとって大佐は大佐だ。それ以上でもそれ以下でもない。」 「そう言うと思ったよ。だがな、俺にも『超島火炎』っていうちゃんとした名前があるんだ。」 「知ってるよ。浄化の炎『メガ・フレア』だろ?」 「それも幾分昔の話だな。ご覧のとおり、今はしがない情報屋さ。」 火炎と名乗った男はウィスキーをあおると、苦笑した。 「それで、頼みたいことってのはなんなんだ?」 グラスの底にあるマッシュルームを食べながら、魔理沙は火炎に問いかける。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加