1:DEEP SEA

10/34

57人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
 「何?」  「宮代君ってジンのこと好きだったんだよ?」  「ああ。中学ン時、空手で私に負けた子ね」  「ジン、強過ぎだよね。」  「まあね」      鼻先で笑うように言う。  「そう言えば、彼氏作らないの?」  自転車を押しながら、ジンはゆっくりとあたしに顔を向けた。  陽光がサングラスの薄紫色のレンズを向こう側から透かして、  その後ろにあるジンの瞳も美しい透明な藤色に輝いている。    「……うん。そうだね。今は海で、いいかな」  「ダイビング?大学の時に直弘君と始めたんだよね?」  「あ。ナオも結婚するんだよ」  「うそ!?」  「ほんと。ダイビングも卒業だって。お金もかかるし相手が潜らない人だとなかなかね」  「えーもったいなぁい!ジンと直弘君、絶対にお似合いだったのに?」  「そうかな?」  「ジンより18センチも大きいって、なかなかいないしさ?」  「まーね。私でかいから」  「てっちゃんと同じくらいだよね?」  「てっちゃん、170だもんね」  「うん」  ジンはぐっぐっと力を込めてハンドルを押している。でもそれが大変そうには見えない。  サングラスの奥の瞳はまっすぐに前を向いている。  何を見てるんだろう?  ジンが見ているものが何か、その視線の行方を探るけど、よくわからない。  「あのさ……ユリ、今日やっぱ江ノ島行くのやめようか」  「え?やめるの?なんで?」
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加