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「何?」
「宮代君ってジンのこと好きだったんだよ?」
「ああ。中学ン時、空手で私に負けた子ね」
「ジン、強過ぎだよね。」
「まあね」
鼻先で笑うように言う。
「そう言えば、彼氏作らないの?」
自転車を押しながら、ジンはゆっくりとあたしに顔を向けた。
陽光がサングラスの薄紫色のレンズを向こう側から透かして、
その後ろにあるジンの瞳も美しい透明な藤色に輝いている。
「……うん。そうだね。今は海で、いいかな」
「ダイビング?大学の時に直弘君と始めたんだよね?」
「あ。ナオも結婚するんだよ」
「うそ!?」
「ほんと。ダイビングも卒業だって。お金もかかるし相手が潜らない人だとなかなかね」
「えーもったいなぁい!ジンと直弘君、絶対にお似合いだったのに?」
「そうかな?」
「ジンより18センチも大きいって、なかなかいないしさ?」
「まーね。私でかいから」
「てっちゃんと同じくらいだよね?」
「てっちゃん、170だもんね」
「うん」
ジンはぐっぐっと力を込めてハンドルを押している。でもそれが大変そうには見えない。
サングラスの奥の瞳はまっすぐに前を向いている。
何を見てるんだろう?
ジンが見ているものが何か、その視線の行方を探るけど、よくわからない。
「あのさ……ユリ、今日やっぱ江ノ島行くのやめようか」
「え?やめるの?なんで?」
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