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「うん?えーと……なんとなく」
「恋人岬の鐘、鳴らしたかったなぁ」
「てっちゃんと鳴らしなってば」
「だって、てっちゃん恥ずかしいって言うんだもん。あとタコせんべいも」
ジンは薄く微笑んでいる。
「ユリ、今日はさ、水族館に行こうよ」
「うーん。じゃあ、いいよ?」
「おごってあげるからさ。入場料」
「えーいいって」
「バースディプレゼントに」
とくんと胸の中で心臓が鳴った。
「……あ、ありがとう」
てっちゃんは、本当に忘れてるのかなぁ。あたしの誕生日なのに。
接待って?仕事って?……本当なの?
「ユリ?どうかした?」
「あ?ううん。水族館すっごく久しぶり」
「ふぅん……」
砂のあるところをやりすごして、ジンは自転車を止めた。
ハンドルをあたしに返しながら、じっと見るから、ちょっとどきどきした。心配事がばれそうで。けど、余計な心配はかけたくない。
「な、何?どうかした?」
「それはこっちのセリフ。ユリ、やっぱり、何かあった?」
「え?やだ!ないないない!」
まだじっと見てる。ジンって鋭いからなぁ……。でも平気な顔できてるよね?
ジンはふっと笑いながら頷く。
「そっか。……だよね。幸せいっぱいだもんね?」
「そうそう。お先に嫁行ってごめんね。なんてね」
そう言ったら、ジンの表情が曇ったような気がした。
その複雑な表情に、なんだか胸が軋むように痛んだ。
あれ?自分が幸せだからって調子に乗っちゃったかな?
そんな寂しそうな顔しないでよ。こっちまで寂しくなるし。
それに、もしかして、傷つけた?
先に結婚するって、ちょっと自慢気だった?
謝ろうかな。でもそれもドツボりそうだし。やだ。どうしよ。
「あ、あの……ジン?」
「くす。お先に!」
ジンは自分のビーチクルーザーにひょいと乗って走り出した。あたしも慌てて自転車に跨ってペダルに足を乗せた。ぐっとこぎ出す。
「待って!ちょ、ジン!!」
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