1:DEEP SEA

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 「うん?えーと……なんとなく」  「恋人岬の鐘、鳴らしたかったなぁ」  「てっちゃんと鳴らしなってば」  「だって、てっちゃん恥ずかしいって言うんだもん。あとタコせんべいも」    ジンは薄く微笑んでいる。  「ユリ、今日はさ、水族館に行こうよ」  「うーん。じゃあ、いいよ?」  「おごってあげるからさ。入場料」  「えーいいって」  「バースディプレゼントに」  とくんと胸の中で心臓が鳴った。  「……あ、ありがとう」  てっちゃんは、本当に忘れてるのかなぁ。あたしの誕生日なのに。  接待って?仕事って?……本当なの?  「ユリ?どうかした?」  「あ?ううん。水族館すっごく久しぶり」  「ふぅん……」  砂のあるところをやりすごして、ジンは自転車を止めた。  ハンドルをあたしに返しながら、じっと見るから、ちょっとどきどきした。心配事がばれそうで。けど、余計な心配はかけたくない。  「な、何?どうかした?」  「それはこっちのセリフ。ユリ、やっぱり、何かあった?」  「え?やだ!ないないない!」  まだじっと見てる。ジンって鋭いからなぁ……。でも平気な顔できてるよね?  ジンはふっと笑いながら頷く。  「そっか。……だよね。幸せいっぱいだもんね?」  「そうそう。お先に嫁行ってごめんね。なんてね」  そう言ったら、ジンの表情が曇ったような気がした。  その複雑な表情に、なんだか胸が軋むように痛んだ。  あれ?自分が幸せだからって調子に乗っちゃったかな?  そんな寂しそうな顔しないでよ。こっちまで寂しくなるし。  それに、もしかして、傷つけた?  先に結婚するって、ちょっと自慢気だった?  謝ろうかな。でもそれもドツボりそうだし。やだ。どうしよ。  「あ、あの……ジン?」  「くす。お先に!」  ジンは自分のビーチクルーザーにひょいと乗って走り出した。あたしも慌てて自転車に跨ってペダルに足を乗せた。ぐっとこぎ出す。  「待って!ちょ、ジン!!」
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