1:DEEP SEA

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 「ま、本人は気にしてないんだろうけどね。名前だの種類だのって」  「あら?ジン。こっちに来たの?今日は江ノ島に行くって言ってなかった?」  初めて聞く声だった。    そちらを見る。  長い髪を一つにきゅっと結んだ女の人がこちらに来た。  この水族館の制服を着ている。  ジンは一瞬、顔をしかめた。そんな風に見えたけど、すぐ親し気に笑い返す。  「あ、なんとなく……ね」  「ふふふ。へー?そうなんだ。弁天橋、渡りたくないんだ?」  やっぱりねと言わんばかりだ。  何か、変な嫌な感じだった。  その人は、あたしの頭の先からつま先まで、さっと視線を走らせてから、改めて微笑んだ。  「初めまして。私、多ノ海千尋(タノウミチヒロ)。多い、片仮名のノ、海、に千尋(せんじん)の谷、の千尋って書いて、チヒロです。多ノ海なんて、なんかお相撲とりみたいでしょ?」  黒目がちの瞳を三日月にして、くすくすっと笑う。  満たされて、艶のある、色気のある、感じがした。  「あなたがユリさんね?昨日も、ジンと飲んでてあなたの話が出たのよ。小柄で可愛くて、長い付き合いの、ジンにとって唯一の親友だって。今まで、何回聞かされたかしら?」  「チヒロ」 どことなく咎(とが)めるような口調でジンが言った。  「もう行くわね。あとでドルフィンショーも見に来て。私、ナビゲーターだから」  そう言って、チヒロさんは水族館のゲートに向かって去って行った。  「ジン?友達?」  「……うん。行きつけのバーで」  「え?そこって直弘君と行ってたとこでしょ?ジン、今でも行ってるの?」  「うん。だってナオともバーでたまに会うし」  こんなサバサバしたところ、本当に羨ましい。
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