1:DEEP SEA

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 ジンは滑らかな動きですっと顔を近づけ、あたしの髪の匂いを嗅いだ。  ほんの一瞬、ジンの唇があたしの髪に当って、小さな吐息のように吐き出されたジンの甘い息が、髪の毛に纏(まと)わりついた。くすぐったい。背骨がぞくんとした。  「あ……ユリの髪、少しニンニクの匂いするね」  「……もつ煮作ってたんだもん」  ジンが、笑った。  「……誕生日にもつ煮って?しぶいね」  「てっちゃんが好きなの」  「自分の誕生日なのに?」  「だって、喜ぶと思って」  「てっちゃんには?誕生日だって言った?」  「ううん」  ジンはあたしの頭をくしゃっと撫でる。  「しょうがないなぁユリは」  そう言ってポケットからケータイを出す。  「ジン?どしたの?」  ジンはどこかに電話しようとしていた。  口の前で人差し指を立てる。  「……あ?てっちゃん?ジンだけど。ん?ユリなら今トイレ。仕事中に悪いけど、今日がユリの誕生日だって覚えてる?……あ。そうなの?良かった。ううん。それならいい。え?あ……ごめん。仕事の付き合いで。うん。ありがとう。じゃね」  ジンは顔の横でオッケーサインを出す。  「言わないって。大丈夫。じゃねユリのことよろしく」  電話を切ったジンは、すごく嬉しそうだった。  「てっちゃん、なんて?」  「内緒。てっちゃんと約束したから」  「えー」  「まあまあ」  ジンは、なだめるようにとんとんとあたしの両肩を叩いて、笑う。  「大丈夫。楽しみしてなよ?ね?」
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