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ジンは滑らかな動きですっと顔を近づけ、あたしの髪の匂いを嗅いだ。
ほんの一瞬、ジンの唇があたしの髪に当って、小さな吐息のように吐き出されたジンの甘い息が、髪の毛に纏(まと)わりついた。くすぐったい。背骨がぞくんとした。
「あ……ユリの髪、少しニンニクの匂いするね」
「……もつ煮作ってたんだもん」
ジンが、笑った。
「……誕生日にもつ煮って?しぶいね」
「てっちゃんが好きなの」
「自分の誕生日なのに?」
「だって、喜ぶと思って」
「てっちゃんには?誕生日だって言った?」
「ううん」
ジンはあたしの頭をくしゃっと撫でる。
「しょうがないなぁユリは」
そう言ってポケットからケータイを出す。
「ジン?どしたの?」
ジンはどこかに電話しようとしていた。
口の前で人差し指を立てる。
「……あ?てっちゃん?ジンだけど。ん?ユリなら今トイレ。仕事中に悪いけど、今日がユリの誕生日だって覚えてる?……あ。そうなの?良かった。ううん。それならいい。え?あ……ごめん。仕事の付き合いで。うん。ありがとう。じゃね」
ジンは顔の横でオッケーサインを出す。
「言わないって。大丈夫。じゃねユリのことよろしく」
電話を切ったジンは、すごく嬉しそうだった。
「てっちゃん、なんて?」
「内緒。てっちゃんと約束したから」
「えー」
「まあまあ」
ジンは、なだめるようにとんとんとあたしの両肩を叩いて、笑う。
「大丈夫。楽しみしてなよ?ね?」
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