1:DEEP SEA

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 「仕事。欠員出て。ダイビングインストラクターの資格取ることになったの。うちの提携校、沖縄だから」  「そんなぁ」  「ほんとごめん」  「ブーケトス、ジンにするつもりだったのに?」  「ごめんね。ユリ」  ショック。すごくショック。ジンには絶対に出てほしかったのに。ずっと前から約束してたのに。    だけど、仕事って言われたら、もうどうしようもない。  「泣きたいくらい残念だけど、仕事ならしかたないよね?」  「ごめん。ありがとう」  「それで、帰ってくるのは?」  「うん……まだはっきりしないけど2、3か月あとかな」  「長いね」  「ん」  ジンとそんなに長く会わないこと、今までなかったのに。  うわあんと東雲坂田鮫が近づいてきた。  子分の魚達は、その下で置いてかれないように必死で泳ぐ。  また東雲坂田鮫のきりっとしたイケメンの目と視線があった。  『お前も1人じゃ泳げないのか?』  って、言われたような気がして……。  何よ?  あんたってば  サメなの?エイなの?  変な奴。  いやいや。  エイなのにサメって言われてることは、どうなのさ?  ゆうゆうと泳ぐ東雲坂田鮫を見て思った。  そんな奴になんか、あたしの気持ちは、わかりっこないんだから。  東雲坂田鮫は様々な魚の中で異彩な存在感を放ちながら、  それでも、何一つ思い煩うことがないみたいに、ゆったりと泳いでいる。  そして、ジンは、それをただ無心に目で追っていた。
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