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…*ジンSIDE*…
「ほんとにかわいい子だね」
うふふ。チヒロは私のケータイを覗き込むと、あの黒目がちの瞳をきらきらさせて、私の目を見た。
右、左、右……視線を動かしてそれぞれの瞳の、その奥に隠されたモノを探っているみたいだ。
「見過ぎ」
目を逸らした。
ユリと別れて、ダイバー仲間が集まるバー『バリバランス』に直行したのは、
何しててもテレビ見てたって、きっと、今頃は皆でユリの誕生会をしてるんだって思っちゃうんだろうな……そう思うと一人で家にいるのが嫌だったから。
てっちゃんは、もちろんさっきの電話で誘ってくれた。
ユリの一番の親友の、私。
完璧サプライズを貫くために今日まで私にも秘密にしててごめんなって、てっちゃんはこんな私に言ってくれた。
でも、仕事の付き合いがあるって、断ったのは私。
幸せそうな仲の良い二人を目の前にして、自分がいつものようにしていられるか、自信がなかった。
しばらくカウンターの端っこで一人で飲んでいるとチヒロが来た。
にっこにこの満面の笑顔。
予測が当たったことと、たぶん私に会えたことで素直に喜んでいる顔だった。
「やっぱりね。だと思った」
そう言って、私のグラスを取ると店内奥の、観葉植物の陰にある小ぶりなテーブル席に向かった。
了承なしなんだ。強引に。夕べと同じに。あっという間にチヒロのペースに巻き込まれる。
チヒロの頭を見下ろしながら着いていく。自分を、嗤いながら。
よほど親密な間柄でなきゃ座らない、ラブシートみたいな奥のテーブル席。
先週、混み合った時間に来た一見さんのサラリーマン二人組がこの席に通されて、すっごく気まずい顔してたっけ。
でも、女二人だと周りにも違和感は持たれないみたい。
誰一人、私とチヒロに気を留めない。
私を奥に押し込んでチヒロはちょこんと隣に座った。途端にケータイにメールが届いて、開けばユリからのメールだった。
絵文字いりの幸せそうなメールを見ながら、チヒロは言った。
「ほんとかわいい子だね」って。
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