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チヒロが黒目がちの瞳を綺麗に細め、やや薄い唇を芸術的アシンメトリーに引きあげて微笑む。
白い小さな犬歯が覗く。
その指に、この瞳と唇に、その小さな犬歯に、狂わされた夕べ。
チヒロに初めて会って半年。
単なる友達のエリアから軽々と向こう側へ。
確かにことあるごとこ、チヒロは私を好きだと言ってたけど……。
でも……。
本当にやすやすと……。
導かれた。
そして、千尋の谷底で、ずっとずっと深い土中で蠢(うごめ)いていたソレに出会った。
それが本当の私。
ユリには絶対に見せられない。私の気持ちは。本当の思いは。
「……これから?」
「貸して」
チヒロが小柄な割に少し大きめな手を差し出してきて、私はその上に素直にケータイを乗せた。
「素直でよろしい」
ケータイを持つ細い節ばった指を器用に動かしてチヒロはメールを打った。
『行けなくてごめんね。でもユリが幸せそうで良かった。沖縄、行ってきます。帰ってきたらまた会おうね。』
「これくらいが最低ラインじゃない?どうせジンのことだから絵文字、使わないでしょ?」
チヒロはそう言って私の手にケータイを寄こした。
2回、読み返して送信した。
チヒロは目を細め満足そうに頷いて、またごくんと喉を鳴らしジンバックを飲んだ。
「チヒロは、いつから?」
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