6:Peace be upon your soul

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便箋をくしゃりと握り潰す。 自分のイジワルな心も一緒に。 新しい便箋を前に思う。 一番、彼に伝えたいことはなぁに? 【ヒロへ 大学入学おめでとう。お互いに、本当にもう、別々の、全然違う、新しい世界にいるね。あのね、欲しいと思うものは自分から欲しいって言わなくちゃ、手に入らないって、私に教えてくれた人がいて、私は、それで幸せになれたから、ヒロも幸せになってね。 PS:この世界には男と女しかいないでしょ?組み合わせは何種類あると思う?結局は、どれだっていいんじゃないの?なんてね シホより】 便箋の上に記した文字の全てが本心とは正直、言えない。 本当は幸せになって欲しいと思ってないような気がする。    ただ今の私が幸せだからあなたなんかどうでもよくてだけど余裕のある私は可哀そうなあなたのことを心配してるって自分がどれだけ満たされてるか教えてやりたいって思ってるだけかもしれない。 書きかけて握り潰した2通の手紙を、この手紙で包む。 雑巾でも絞るようにぎゅうっと捻って丸める。 終わり。 ふと、影が落ちた。 顔を上げる。 太陽をバックに、笑顔。 「志保?何してんの?」 「ん?なんでもないよ」 彼は体を屈めて私の髪に鼻先を近づけてくる。 くんくん。
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