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「ジンは?初めてあの子を特別だって思ったの、いつ?」
逆に聞き返されて考えてみた。
幼い泣き顔を思い出して、胸がぎゅっと痛んだ。
グラスを口に運ぶ。甘いバーボンの香りが鼻をかすめ、飲み下せば喉から胃袋まで熱くする。
「小2の時に、迷子になったユリを探し出して……」
そう。あれは、あの団地の中で迷子になったユリを探し出した時だ。
泣いてた。土管山のトンネルの中で膝を抱えて泣き声は立てずに、静かに静かに何かに脅えてるみたいだった。
探し出した私に向けたのは不安で陰った目。
私の顔を見て、黙って目を見開くと、ユリは突然消音を解除して、うわーんと声を上げて泣いた。
ユリのそばに行くために、トンネルの中に頭を突っ込むとその泣き声が反響して、私の中を満たしたんだ。
それで、この子のことは私が守ってあげなくちゃって思った。
いつも一緒だった。特別大切な友達だった。失いたくない。
だけど、それがこんな気持ちの、種になるとは思わなかった。
芽吹いたものの正体を知ったのは、だぶん中2の時だと思う。
文化祭でロミオとジュリエットを演じた。ありがちな展開。
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