7:SMILE for

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「好孝、今日は一緒に行こうか?」 保育園の、登園初日、 エントランスに降りるエレベーターの中でそう言うと好孝は「いい。大丈夫」と言った。 エントランス前には通園バスを待つ子供と母親が、四組。楽しそうにおしゃべりしていた。 出来上がった輪には、入りにくい。少し遠くに目立たないように、立つ。 視線を感じるけど、気付かないふりをした。 できるだけ関わり合いになりたくなかった。 間もなく 黄色い車体にサルやブタやゾウと、ネズミかウサギか微妙な何か、全体的に楽しく若干歪んだ動物の描かれたバスがやってきた。 先にいた四人の子供達は、次々乗降口の先生とハイタッチして乗り込んでいく。 好孝の番 先生は同じように手を掲げていたが、好孝はきょとん顔で戸惑っている。 先生はニコニコしながら、手を下げた。 クマとウサギのアップリケのついたピンクのエプロンをして、セミロングの髪をツインテールにし、片手にむずがる子供を抱いている。 「好孝君ですね?初めまして。おはようございます。みどり先生です」 「おはようございます。辻好孝です」 「辻…辻、好孝…?」 みどり先生はクリップボードの上を、視線を上下に走らせて困った顔をした。 片手に抱いた子供がやだやだ帰りたいと泣いている。 「あ、あの先生?」 「はい?」 「好孝の母です。相馬好孝、です」 「え?…あ、ありました。相馬好孝君」 みどり先生は、ごく当たり前の笑顔を崩さずクリップボードに何かチェックし、車内を振り返った。 「翼君、新しいお友達、隣にお願い!」 「おー!」 翼君と呼ばれた男の子は、しゃきんと手を挙げた。 さっきまでここでバスを待っていた四人の子供のうちの一人。 先生とハイタッチして楽しそうにバスに乗り込んだ子だった。 好孝は、私を見てうんと頷きバスに乗り込んだ。 緊張してる。表情が堅い。 この子、ちゃんと笑えるのかな… 不安は胸の片隅に押しやり、励ますようににっこり。顔が、ひきつりそうだ。 「いってらっしゃい」 手を振る。
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