7:SMILE for

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好孝も小さな手を軽くはたはた振ったけど、隣の翼君に何か話し掛けられて、そちらに顔を向けた。 バスはパタンと扉を閉め、あっさりと走り出した。 ちゃんと、溶け込めるかな? はぁ。ため息ばかり。 体も心も重たくて、持て余している。 やだな。 …ウケるぅ! でさ、お気にのパンツ縮ませたって怒っちゃってぇ。よく見たら翼のパンツ無理やり履こうとしてんの。あれじゃたたの酔っぱらいだっての! …さすが翼パパだ! …あははは!翼ママが甘いからだよぉ そうかなぁ?ほんと、まいっちゃった ひときわ大声でしゃべり笑うのは、その場の中心。 ボスキャラ。翼って子のママらしい。 たむろして賑やかにしゃべり笑うその母親達に、 わかってます無視する気はないですと知らせるためだけに、 軽く会釈して私はエレベーターに向かおうとした。 「あの、」 想定外に声をかけられた。 「はい?」 振り返る。 怪訝そうな顔にならないよう、必死。 けど、多分バレバレ。 柔らかく受け流し口を開くボスキャラの母親。 「1407に越して来た方、ですよね?」 「ええ」 「1306の藤堂です」笑顔で畳み掛けてくる。 「あ…あの…相馬です。よろしくお願いします」 しまった。 ちゃんと挨拶ができない人だと思われたかもしれない。 「ごめんなさい。ご挨拶が遅くなって、あの、あとで改めて伺おうと…」 言い訳。 だってこのマンションの全室に挨拶なんて現実的じゃない。世帯数100は超えてるんだもの。 その上、この人達の部屋がどこかなんて、こっちから聞かないとわかりっこない。 ボスキャラは、にぃっこりと時間をかけて笑って、言う。いいから気にしなくてって感じ? 「いいのよ。私達、固まってたし。声かけにくかったかなって。逆にごめんなさいね」 「1007の橋田です。やっぱり最上階だと海がきれいに見えるの?」 サブボスみたいな橋田が、歯を剥き出すように笑う。 敵意ないからと示そうとするサルみたいだ。前歯に青のり着いてるし。 「1006の木戸です。初日に一人でバスに乗れるなんてすごいね」 負けずに声を上げる。多分、三番手の木戸。 顎、上げ気味で破顔。自分が上位だからと主張する、わかりやすい笑顔。 「ええ、まあ」
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