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「301の、春日です。あの、今度、ランチでもご一緒しましょう?」
気弱そうな声で控え目に微笑むどん尻、春日。
「あ、はい。…ありがとうございます」
「もしよかったら、これから」
サブボス橋田が言いながら、ちらりとボスキャラ藤堂に目をやる。
「…あ、あの、ごめんなさい。ちょっとまだ片付けが終わってなくて、あの、また…」
語尾はぼかして頭を下げると、視界の隅で苦々しく笑う、藤堂。
がっちりと私に目を合わせて「そりゃそうよ。越したばかりだと忙しいわよね?何かあったら、気軽に声をかけてね」
うちのサブが気のきかないこと言ってごめんなさいね、と言いたそうな、やっぱり笑顔。
曖昧に頷いて、立ち去る。
あの中に入らなきゃいけないの?ああ。嫌だ嫌だ。
エレベーターに乗り込んでから、ほっと息をついた。
すぐに不快になる。香水の匂いが残っていて、否応もなく嗅覚が刺激される。
この甘ったるい香水は…。
あの女の華やかな笑顔を思い出す。「困ったことがあったらいつでも相談してね?」親切そうに言ったくせに……。
なによ!
知らず手を握りしめてしまう。
嫌だ。誰とも関わりたくない。
あの笑顔の下で、本当は何を考えてんだか、わかったもんじゃない。
だいたい、何かあったらって?
何があるのよ?
あんた達に助けられる、何が?
部屋に戻ると電話が鳴っていた。
ぷるるるる
ぷるるるる
ぷるるるる
誰から?
一体、誰がここに電話をしてくるっていうの?
この番号にかけてくる人が「私」に用事があるとは思えない。
ぷるるるる ぷるるるる ぷるるるる
どうせ、あれ。
ただいま、お掃除の無料モニターを…とか
今、焼酎の特別セールで…とか
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