7:SMILE for

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鳴り止まないコール音は、私を急き立てる。 ぷるるるる ぷるるるる ぷるるるる だっと駆け出して、受話器に飛び付く。 まさか! まさか! 「あ!あの!相馬です!」 「…」 「もしもし?もしもし?相馬ですっ!」 息を飲んで、言葉を待つ。 「あ、の?」 「…くっ」 「…もしもし?」嫌な感じがした。 「…くすくす」 電話に出たことをすぐ後悔した。 ばかだ。ほんとばかだ。 しかも、保育園からの電話かも、なんて考えながら胸の下で思ってた。 孝之からの電話かもしれない。 そうだったらなんて言ってやろう。 でもごめんなって言われたら、きっと許しちゃうんだ。だって、好孝だっているんだもの。 いや、だけど、違ってもショックをなんとかやりすごそうと、瞬時に考え出したんだ。 電話に飛び付く言い訳と、違っても逃げ込むための安全地帯。 保育園からの、緊急の電話かもしれない…って。だから出なくちゃって。 なのに… 受話器の向こう側で可笑しそうに笑う、そいつが言った。 「ふぅん、旧姓、相馬って言うんだ。へー。くすくす」 笑ってる。勝ち誇って艶々した女の、笑い声。 あの笑顔が脳裏をよぎる。苦々しい。 「どちら様ですか?」 「やぁだ。わかってるくせに」 わかってる。 聞きたくもない。 答えなんかあんたに求めちゃいない。 あの、華やかなきらきらした笑顔と親切そうな優し気な微笑み、唇の片側だけ釣糸で引き上げたような、企みを含んだにやりとした笑み顔。 その、どれもが、田舎街には似つかわしくないほど、華があった。 孝之に、私と好孝を簡単に捨てる決心をさせた女。 真っ赤なくちびると甘ったるい香水の、女。 「なんの用が?」
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